特集 神経学における最近の研究
<病理>
神経系における鉛中毒
平野 朝雄
1
,
岩田 誠
1
1モンテフイオーレ病院,病理学科,神経病理学部門
pp.768-769
発行日 1978年7月10日
Published Date 1978/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904925
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鉛中毒の神経系に対する影響は,個体の年齢によってきわめて大きな差があり,幼小児に生ずる急性脳症と,成人における慢性ニューロパチーとでは,同じ鉛による中毒といいながら,その臨床像も病理像も,大変に異なっている。
急性鉛脳症は,そのほとんどが1歳から5歳までの幼児であり,急速に進展する食欲不振と精神活動の低下にひきつづいて,頭蓋内圧亢進症状と,痙攣,意識障害などの激しい神経症状が生じ,適切な治療が行なわれない場合には,約半数の患者が死亡し,また幸いにしで生存し得た場合にも,重篤な後遺症を残すことが多いと言われている。本症の病理学的本態は,比較的近年に至るまで明らかにされなかったが,1937年,BLACKMANは,毛細血管の病変に基づく,血管周囲への血漿浸出によって生ずる脳の腫大が,鉛脳症の本質的な変化であることを指摘した。これにより,鉛が血管を介して中枢神経系を障害することが考えられるようになったが,神経細胞に対する,鉛の直接の毒性がまったく否定されたわけではない。また,血管を介する作用に関しても,脳・血液関門の障害による浮腫液の浸出のみでなく,内皮細胞の腫大や血栓形成などによる神経組織の虚血性変化を重視するものもあって,決して,すべての点が明らかにされているわけではない。
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