研究・調査・報告
某顔料工場における鉛中毒症例について
柴田 寿彦
1
,
田中 正夫
1
1名古屋大学医学部血液内科
pp.56-61
発行日 1972年2月10日
Published Date 1972/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205031
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鉛中毒はヒポクラテスの時代から知られている疾患であり,当時のギリシア人は鉛顔料による彩色陶器には酸性の物質を入れてはいけないことを知っていた。この文化を引き継いだローマ人は,その陶器の美しさに魅せられ,それにワインを入れて飲んだ。しかしそのためにローマの貴族階級の人々は鉛中毒となり,その女性は精力減退や不妊症を起こし,これがローマ帝国の衰退の一因になったという。"美しいものには毒がある"という例である。現代では,機械文明の推進役であるガソリンに含まれる鉛が問題を起こしている。この二つにはなにか共通点があるように思えておもしろい。
昔から,鉛は貧血を起こすことで有名な物質であり,おれわれの取り扱った患者も,難治の貧血症ということで血液内科に紹介され入院したものである。そしてわれわれはこの患者の病歴を聞き,職場環境を調べ,患者やその同僚の検査を行なうにつれ,この患者を取り巻く環境の表と裏の著しい相違に驚き,放置できないものとして学会発表その他を行なったものである。
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