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I.はじめに
今日の欧米諸国においては,多発性硬化症(以下MS)の病理解剖所見を再検討するなどいうことは,おそらく奇異な感さえ持たれることであると思う。それは,本症がいわゆる一次性脱髄疾患,すなわち髄鞘のみがまず侵される中枢神経疾患の代表的なものである,というその基本的な性格を初めとし,本症の病理組織学的な諸特徴はすでに古くから,くまなく検討され,指摘しつくされた,という考えが欧米では常識であるためと思われる。事実,近年続々と出版され続けている多発性硬化症についてのモノグラフをみても,いまさら本症の肉眼像や光顕レベルの検討結果を述べているものはほとんど見当たらない。また,欧米の神経学,神経病理学関係の書も,本症が一次性脱髄疾患であるという基本的な性格を強調するにふさわしい,いわゆる"典型的"な所見や写真を載せている1,8,10,15)。しかもそれらの記載は統計データーなしにほとんど"印象"で書かれている。
他方,本邦における本症の有病率は欧米に比して有意に低いという冲中ら9)の指摘は,最近では厚生省の本症調査研究班(班長,黒岩義五郎)の調査5,6)でも再確認され,臨床的に,日本におけるDevic typeの患者数は全MSグループ患者の7.6%と指摘された。
It has been pointed out, and recently confirmed, that the prevalence rate of multiple sclerosis (MS) in Japan is exceedingly lower than that in European and American countries. Likewise, it has long been an object of discussion in Japan up to the present whether the distribution and histologic appearance of lesions of MS cases in Japan are different from those in European and American countries: for example, the lesions of MS in Japan frequently occur mainly in the optic nerves and spinal cord, and they are, in many cases, necrotic and destructive.
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