シンポジウム—脱髄性疾患
外傷に続発した視束脊髓炎の一例—組織学的所見
柴田 收一
1
1東京女子医科大学精神神経学教室
pp.132-135
発行日 1956年12月1日
Published Date 1956/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431901548
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臨床経過の概要 24才の女性。昭和29年5月9日夕刻,停り切らないバスから飛降りて転倒し,左後頭部を強打,附近の病院に入院した。最初急性脳震盪症状を呈したが速かに軽快し同月24日退院。所が翌6月初旬下半身両側温覚鈍麻,7月中旬よりは右半身触覚鈍麻,次いで両側下肢運動麻痺等の症状が出現して来たが,8月に入つて一時自然寛解を来たした。併し約3週間後の同月末よりは発熱を伴う脳圧亢進症状を呈すると共に上記症状増悪し,右眼次いで左眼の視力低下も加わり9月中旬当科入院当時は,右上肢の筋緊張低下及び萎縮,両下肢の運動不全麻痺,膀胱・直腸障害を呈し,眼底には両側の乳頭耳側蒼白,脊髓液には細胞数及び総蛋白量の増加が認められた。Cortison療法開始と共に症状は急速に軽快。約4ヵ月間の寛解期の後翌30年2月初旬より両肩,背部の神経痛様疼痛,全身脱力感等の症状発現と共に再び増悪し,同月中句急性呼吸障害を起し肺炎を併発して死亡。
本例の昭和30年1月末迄の経過は同年2月関東精神神経学会で比較的詳細に発表し,其の際,寛解期を繰返すことと,所謂「器質性多幸症」,右顔面神経不全麻痺,言語断綴及び眼球震盪等の症状の一過性出現とは,多発性硬化を示唆しつつも,発熱,脊髓液の炎症性所見,脊髓症状の早期発現等から,視束脊髓炎との診断を与えておいたものである。
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