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はじめに
飲食物を味わうときは,味覚だけでなく口腔内体性感覚と総合された感覚としてとらえられる。舌の味覚器は,顔面神経の枝である鼓索神経および舌咽神経によって支配されているが,口腔領域の感覚ということで,本特集に加えられたものと思う。味覚は,水に溶解した化学物質を適刺激とし,嗅覚とともに化学感覚と総称される。下等動物から霊長類に至るまで,栄養となる糖類を好んで摂取し,有害物質であることが多い苦味物質,酸などは拒否する行動が一般的にみられ,味覚は摂食行動の基礎となる重要な感覚である。ところが,その受容機構の研究は,視覚や聴覚の分野に比較して,大きく立ち後れてきた。近年のパッチクランプ法を用いた研究などによって,やっと受容機構解明のスピードも加速されたように思われる。
味覚受容器である味細胞は,第一次求心性神経線維(味神経線維)との間に化学シナプスを形成しており,味覚刺激を受けると,トランスミッターを放出して,味神経線維に活動電位を発生させる。その信号が脳に伝えられて,味が知覚される。味細胞は,上皮が特殊化した構造である幅約40μm,長さ60~80μmの味蕾の中に含まれている。味蕾は舌,口蓋,咽頭,喉頭に存在し,成人では,口腔全体で4,000~5,000個の味蕾があって,うち80~94%が舌の乳頭内にあるといわれている。味蕾内には40~60個の基底膜から表面にまで達する細長い紡錘形の細胞が含まれ,細胞先端は微絨毛様突起となって,味蕾の開口部である味孔(図1A)内に突出しており,流入してきた味溶液と接触する。味蕾先端部では,細胞間はタイト・ジャンクションで密に結合しており,味溶液は細胞間隙に侵入できない。電顕像から,紡錘形細胞はI型細胞(暗細胞),II型細胞(明細胞)およびIII型細胞(中間型細胞)の3種類に分けられている(図1B)。そのうち,味神経終末との間にシナプス結合が見られるIII型細胞が受容細胞のもっとも有力な候補と考えられている2-4)。ただし,最近のマウス有郭乳頭の研究では,3種類の細胞すべてが,味神経終末とシナプスを形成していること5),ならびに,3H-チミジンの取り込み実験で,新生されてからの時間経過に伴って,暗調細胞から中間調細胞へ,続いて明調細胞へと形態変化がみられたことから,3種類の細胞は同一起源の細胞で,すべて受容細胞であるとの考えが提出された6)。しかし,哺乳類の味蕾における味刺激時の電顕像の解析では,III型細胞のみにシナプス部での小胞の開口分泌像が認められており7),各タイプの細胞は起源が異なるという報告3)も考慮すると,III型細胞が受容細胞として機能し,他は支持細胞と考えるのが現在のところ妥当であろう。味蕾内には,その他に表面まで達しない基底細胞があり,味細胞は約10日でターンオーバーを繰り返している8)が,新しい味細胞はこの基底細胞や味蕾周囲の上皮細胞から分化しながら,味蕾内へ移動していく。
Recent progress in the study of taste reception mechanisms are summarized in the present review. Understanding of the mechanisms underlying taste reception was greatly advanced by recent studies using patch-clamp technique and optical measurement of intracellular Ca2+ concentration. From patch-clamp analysis, several types of ionic channels such as voltage-gated Na+ channel, L-type Ca2+ channel, T-type Ca2+ channel, delayed rectifying K+ channel, A channel, inwardly rectifying K+ channel and Ca2+-activated K+ channel have been identified in the isolated vertebrate taste receptor cells.
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