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はじめに
数年まえに口腔生理学の中村嘉男教授に,咀嚼感とは一体どのような感覚として考えればよいのかお伺いいたしたことがあります。その時に,実は私達は人工歯(義歯に配列する既製の歯)の形態に関する仕事を手掛けておりました。当時,私は友人のいるロンドンのGuy'sHospitalに毎年数ヵ月間勉強に出向いておりまして,その折に外来にクインズマザーが見えられ義歯になっても自分の歯で咀嚼していたと同様な感覚でステーキが食べられる歯を作ってほしいといわれスタッフ一同,義歯の人工歯とその咀嚼状態の研究に取り組みだしました。私も1890年代よりGysi下顎運動路を幾何学的に解明した軸学説(左右下顎関節頭間に仮想軸を設定し展開図による作図を行う)咬合小面学説(歯牙の機能面に生じた咬耗面間の角度解析)に由来する総義歯用の平衡咬合を構成するために開発され現在まで使用されてきている20゜および30゜陶歯を残存歯列と対咬させて咬合関係を作っている現状に疑念を抱き自分の専門分野(可撤性義歯)について検索しておりました1)。これらを検索するにあたりGuy's Hospitalのスタッフも私も現在に至るまで咀嚼筋電図学,試験食品による咀嚼効率,咀嚼運動路の解析など,現在補綴患者を対象として臨床的に客観化しうるデータを基に解析を行って来ました2-8)。しかし,臨床的に患者の問診による補綴処置に対する評価は必ずしもこのようなデータとは一致しない症例にしばしば遭遇し,果たしてクインズマザーの望んだ感覚とは単に咀嚼効率や咬合出力によって解決できるものか否か,と言った疑念が生じてきました。
何か他の重要な因子が欠落していないだろうか?患者の年齢,気質,生活習慣といった要素まで関与しているのではないか?とくに臨床的には誰が診ても人工歯列間の咬合接触がほとんど存在していないにもかかわらず“非常に具合がよく何でも美味しくいただけます”と問診に対して答えられることもしばしばありまして,一体“咀嚼感”とは如何なる感覚を意味するものか悩んでいた時でした。
Harmonious functioning of the masticatory system is the general goal towards which dental practice is oriented.
In recent years a number of studies on human subjects and animals have provided some evidence for the physiological basis of occlusal diagnosis and therapy.
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