Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
電位依存性ナトリウムチャネルは,神経や筋肉細胞で生じる活動電位の発生初期過程で,必須の役割を担うチャネル分子である。電気ウナギの発電器官における最初のナトリウムチャネルのcDNAクローニングが契機となり,哺乳類では10種類のcDNAが単離・同定され,これらの構造と機能について詳細な解析がなされてきた。また近年,遺伝子レベルの解析が急速に進み,重篤なチャネロパチーを引き起こす原因遺伝子としての理解も深まりつつある。さらには,遺伝子ノックアウトマウス技術の進展によって,個体レベルでの機能解析にもメスが入り始めた。本総説では,こうしたナトリウムチャネルの構造や機能制御の分子メカニズムについて,筆者らの最近の研究成果を交えて概説する。
はじめに
神経細胞や筋肉細胞で発生する活動電位は,ナトリウムイオンに対する細胞膜透過性の一過性上昇と,それに続いて起こるカリウムイオンに対する細胞膜透過性の一過性上昇によって生じる。電位依存性ナトリウムチャネルは,初期過程で起こるナトリウムイオンに対する細胞膜透過性の一過性上昇を担う分子であり,①ナトリウムイオンへの選択性が比較的高く(選択的透過性),②細胞膜が脱分極すると開く(活性化),③細胞膜が脱分極したままでも短時間開いた後閉じる(不活性化)といった3つの基本的な特徴を持つ。生化学的手法によるタンパク質精製の結果,哺乳類の脳では分子量約260Kのαサブユニットと,33K/36Kのβサブユニットからなる膜タンパク質複合体がその実体として浮かび上がった。続いて1984年の電気ウナギ発電器官のナトリウムチャネルのcDNAクローニング22)が契機となり,数多くのαおよびβサブユニットのcDNAクローニングが続々となされた。今では,ヒトやラットのαサブユニットのcDNAは10種類を数える。
神経細胞や筋肉細胞で観察されていた上記3つの特徴を併せ持つナトリウムチャネル分子が,クローニングされたcDNAからアフリカツメガエル卵母細胞やHEK293細胞などを使って再構成された。一部のαサブユニットを除けば,卵母細胞で再構成されたαサブユニットの特性にはほとんど差がなかった。しかしながら,単なる冗長性でこれほど多くのαサブユニットが存在するわけではない。それぞれ異なる遺伝子がコードしているチャネル分子は,時期特異的に発現している。またそれぞれのαサブユニットは,中枢神経系,末梢神経系,心筋,骨格筋といった興奮性組織,さらには一部の非興奮性組織に領域特異的に発現する。その発現量調節,リン酸化やβサブユニットなどによる修飾により,それぞれのαサブユニットを個別に機能制御し,多岐にわたる神経細胞や筋肉細胞の電気的活動は,厳密にコントロールされていると考えられている。したがって,一つのチャネル遺伝子に生じた突然変異は,即重篤な先天性神経疾患,運動疾患,心臓疾患(ナトリウムチャネロパチー)に結びつく要因となる。
ナトリウムチャネロパチーは,現在5種類のαサブユニットと1種類のβサブユニットで知られている。その多くはGain of Function型の変異である。骨格筋のナトリウムチャネロパチーは,高カリウム性周期性四肢麻痺,先天性筋緊張症,高カリウム性筋緊張症として知られる。心筋では,LongQTシンドローム3,Brugadaシンドロームとして知られる。また神経系では,発熱性全身てんかん(GEFS+)として知られている。本総説では,これらナトリウムチャネロパチーの理解を深めるために,ナトリウムチャネルの構造と機能について概説する。ナトリウムチャネルの遺伝子ファミリーの中には,最近筆者らが生理的機能を明らかにすることに成功した,濃度依存性ナトリウムチャネルも含まれており,これを機会に紹介したい。
Voltage-gated sodium channels are responsible for the initial process of the action potential generated in nerve or muscular cells. Studies of the molecular structure and function of the sodium channels began with report of the cDNA cloning of the electric eel electroplax sodium channel. Subsequently, in the mammals, ten kinds of cDNAs encoding the sodium channels have been cloned. This review primary focuses on the recent view of the molecular mechanisms of sodium channel function and regulation. In addition, we briefly outline our recent studies on Naxsodium channel, which is involved in CNS sodium-level sensing.
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.