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少子高齢社会における妊婦・褥婦診療
妊娠・出産に関する状況はこの数十年で大きく変化した。分娩件数は2023年には73万件となり、過去最低を更新した。1970年代頃に毎年200万人以上が生まれていたことからすると、約1/3である。一方で、出産年齢は上昇し、第1子の平均出産年齢は30歳を超え、「高齢出産」と言われる35歳以上の出産が全体の30%を占める。それに伴い、妊産婦が内科などの合併症をもつケースが3割以上と増加している。さらに、ハイリスク妊産婦の割合も増加し、社会的ハイリスク妊産婦は5〜20%と報告されている。「社会的ハイリスク妊娠」とは、定まった定義はないものの、平成30(2018)〜令和2(2020)年度厚生労働科学研究班(研究代表者 光田信明)では、「さまざまな要因により、今後の子育てが困難であろうと思われる妊娠」としており、児の虐待や妊産婦自殺を防ぐことを目的にリスクアセスメントを行っている。なお、児童福祉法の「特定妊婦」とは「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されており、要保護・要支援児童をより早期に発見して適切に支援するため、望まない妊娠や妊婦健診未受診などのケースは、要保護児童対策地域協議会などで情報共有が行われている。「社会的ハイリスク妊産婦」は、特定妊婦を包含し、フォローすべき妊産婦をより広く捉えた概念である。たとえば、若年(10代)、高齢、身体・精神疾患の既往、虐待・被虐待の既往、児の合併症、さらに妊娠出産の受け止め方や経済状況、家庭環境などの要因も含む。若年の在留外国人が増えていることから、外国人妊婦の出産は全体の約3.1%と増えているが、言語の問題や在留資格、経済状況、社会的孤立など医療アクセスに障壁がある場合、社会的ハイリスクとして認識する必要がある。
晩婚化、非婚化により出産を経験しない女性が27%(2020年、50歳時点)と増えている一方で、妊娠を望んで不妊治療を受ける人の数も増加傾向である。2022年度から不妊治療の一部が公的医療保険の対象となったことで、体外受精の治療件数は年間約54万件へと増加した。2022年に体外受精で生まれた子どもは7.7万人であり、全出生のうち10人に1人となる(日本産科婦人科学会調査、2024年8月30日公表)。「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いた研究では、生殖補助医療により生まれた子どもは自然妊娠と比べて神経発達の遅れが有意に多くみられたが、医療技術そのものに起因するとは言えず、主に親の年齢など不妊に関わる要因と多胎妊娠、およびそれによって生じる妊娠合併症(糖尿病・妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群)や、胎児の発育不全に起因する可能性が示されている1)。
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