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プラネタリーヘルスとは?
今年の夏は暑かった! いや、「今年の夏も暑かった!」と言うべきだろう。外来で「先生、これは熱中症ですか?」と尋ねられるのも、1日に1回や2回どころではなかった。実際、図11)からは世界の平均気温が急激に上昇していることが一目瞭然であり、2023年は世界の平均気温が有史以来最も高い1年になった1)。そして気温の上昇に伴って、豪雨、台風、干ばつ、山火事などの自然災害も増加し、激甚化している。われわれが肌身で感じるレベルで、地球の気候変動が起きているのだ。この気候変動は、工業化による化石燃料の使用が増加して、二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素といった温室効果ガスの排出が増えたこと、つまりわれわれ人間の活動が主な原因なのである。
実は地球環境への影響は気候変動だけではない。ここで“プラネタリー・バウンダリーズ”という概念を紹介したい(図2)2)。これは、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的に定義し、地球システムが安定した状態を保つために守るべき限界点を表したものである。いわば、地球の健康診断の結果、といったところだろうか。「気候変動」「生物圏の一体性」「土地利用の変化」「淡水変化」「窒素・リンの生物地球化学的循環」「海洋の酸性化」「大気エアロゾルによる負荷」「成層圏オゾン層の破壊」「新規化学物質」という9つの領域があるが、実は2023年の調査では、実に6つの領域で不可逆的な状態に達していたのである2)。つまり、地球は糖尿病、高血圧症、脂質異常症、変形性膝関節症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、うつ病…といった高齢者の多疾患併存のような状態であり、しかも急速に進行して人類の生活に支障が出ているフェーズにあるのだ。
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