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My Bestクリニカル・パール❶RPRは思慮なくオーダーされるが、解釈には深い思慮が必要
梅毒は2021年頃から世界的流行下にあり、国内でも同様に増加を認め、1999年の全例把握開始以来の最多数を更新している1)。2023年になってから、当院の総合診療科でも外来で梅毒を診断して治療するという事例が多くなり、週に2人も治療したことがあった(内科の外来ですよ!)。個人的に経験した院内の梅毒は、2009年に珍しい鎖骨骨炎で顕在化した2期梅毒と、神経梅毒のコンサルト症例を合わせて3例程度であった。実際には「術前検査でRPR(rapid plasma reagin)陽性になり、その判断がわからない」という相談を受けたものの、高齢者の無症状な生物学的偽陽性(biologically false positive : BPF)であったというのが大半である。2005年にMayo Clinicに留学した時に、そもそもBPFと真の感染を分けるのにRPR 16倍のカットオフを設定した由来に興味をもった。しかし、文献や教科書を読んでも、その起源を当時見つけることができなかった。とある本に、「梅毒感染の早期には抗カルジオリピン抗体が他の疾患と比べて極端に高くなることが経験的に知られていたので、診断の基準とした」という記述を確認したにすぎなかった。
しかし、Mayo Clinicでの衝撃は、いわゆる“術前感染症検査”というのが全くされていないことだった。現地の医師に尋ねると、「そもそも何で手術をする前に、梅毒やB型肝炎やC型肝炎を確認するの? その結果によって手術の方針は変わるの?」と問われ、逆にハッとさせられた。何も考えていなかったという、ルーチンワークの怖さである。当時の日本では、術中の針刺しによる血液経由の感染を心配して術前検査をしていた印象である。陽性者の場合、布の術衣を使い捨てに変えたりしていた。しかし、今や術衣はすべてディスポーザブルであるし、針刺し時には、発生後に患者へ説明して検査をするのが妥当なので、そもそも術前に検査する理由などないのである。術前の検査結果によって針刺し自体は防げないし、通常は術前に調べないHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、針刺しを考えるのであれば無視するのは問題でもある。RPRは本来なら梅毒の診断時にしかオーダーする必要はないので、術前検査なら全く無思慮だと思っていた。
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