Editorial
イルネススクリプトと臨床能力
藤沼 康樹
1
1医療福祉生協連 家庭医療学開発センター
pp.507
発行日 2023年5月15日
Published Date 2023/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429204259
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臨床医は日々患者さんの診療をしているのだが、そうした診療の経験を「積む」ことで、臨床能力は伸びていくと昔から言われている。「経験することで臨床能力が伸びる」という言説は、自明のものとされてきた。とすると、多種多様な疾患をとにかくたくさん診る経験があれば、素晴らしい臨床能力は育つということなのだろうか? 昔から、救急対応を多数経験できるといったことを「売り」にしている研修病院は多い。これまで、「たくさんの症例に曝露させること=よい臨床教育」とされてきたのではないか。しかし、本当にそうなのだろうか?
「経験することで臨床能力が伸びる」という言説における“経験”とは何か? そもそも“臨床能力”とは何を意味するのか? といったことを考えなければならない。経験が認知的操作を経て変形・加工され、取り出して使える長期記憶として、その臨床医の脳に保存されるメカニズムを知ることが必要だが、このプロセスのキーの1つが「イルネススクリプト(illness script)」である。有り体に言えば、1つの疾患を診ることができるためには、その疾患の診療に必要な知識が「台本(script)」のように構造化されていなければならないということである。この台本の構成要素は、リスク・病態生理・臨床像の特徴であるとされる。これらの内容は、個々の臨床医によって微妙に異なっているだろう。
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