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Case
高度貧血患者の呼吸困難の原因が高拍出性心不全ではなく肺塞栓症であった一例
患者:通院歴のない63歳・女性
現病歴:受診1カ月前頃から、階段昇降で動悸・息切れを感じていた。2週間前から、息切れの悪化と食欲不振があり、当院を受診した。安静時心拍数102回/分、SpO2 95%(室内気)、頸静脈圧の上昇、胸部右背面に水泡音、両下腿浮腫を認めた。血液検査でHb 7.7g/dL、MCV 51fLの鉄欠乏性貧血、胸部X線で心拡大を伴う両下肺のすりガラス陰影を認め、貧血に伴う「高拍出性心不全」を疑い、貧血精査および輸血を含めた心不全治療を開始した。
翌日、上部消化管内視鏡で、胃角部に2型(潰瘍限局型)進行胃癌を認めた。入院5日後(輸血5日後)になっても呼吸困難の改善は乏しく、患者は左大腿から下腿裏面にかけて発赤に沿った圧痛を伴う疼痛を訴えた(図11,2))。下肢静脈エコーを行ったところ、大腿静脈全体に血栓を認め、追加精査で呼吸困難の原因は「肺塞栓症」であることが判明した。
Trousseau徴候には2つある3)。Trousseau徴候というと低カルシウム血症に関連した潜在性テタニー徴候を思い起こす方も多いかもしれないが、本稿では「悪性腫瘍」に伴う血栓症による表在性静脈炎「Trousseau's sign of malignancy」について述べる(その理由は最後に明らかにする)。
その名に冠されるフランスの内科医Armand Trousseau(1801〜1867)は、この2つのTrousseau徴候以外にも、多岐にわたる分野で医学の発展に貢献した(表1)4)。解明されていない多くの病気を診て、その原因から治療法までを患者とともに発見した、現代医学をつくった先駆者である(表2)4)。
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