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はじめに
肝区域の外科解剖の研究は1888年に初めて主門脈裂を発表したRex1)の肝解剖の研究までさかのぼる.その後,1950年代に,フランスおよびアメリカから肝区域解剖に関する異なった命名法が提唱され,この2種類の命名法,すなわちCouinaudの分類2)とHealey & Schroyの分類3)が,わが国では混合使用されてきた.混乱の原因は,両者が左側肝を異なった面で区分したこと,また,segmentという用語が異なったレベルの解剖区分に用いられたことにあった(表1)4,5).用語の統一を目的として,International Hepato-Pancreato-Biliary Associationが2000年に提唱したBrisbane 2000 Terminologyでは,Couinaudのsectorとともに,Healey & Schroyのsegmentに代わりsectionという用語が使われたが,少なくともわが国ではあまり普及していないのが現状である6).
一方,近年の画像診断の進歩に伴い,従来は切除標本あるいは鋳型標本を用いなければ検討不可能であった肝内脈管の解剖が,3D-CTあるいは3D-MRI画像として術前に評価可能となった.最近では,MDCT(multidector-row CT)の登場により,これら3D画像の画質も格段に向上してきており,さまざまな解剖上のバリエーションを術前に把握するために有用であると同時に,肝静脈を含めた各(亜)区域脈管単位の支配領域あるいはドレナージ領域を定量的に理解したうえでの手術計画立案における重要なデータ提供ツールとなっている(図1).こと生体肝移植手術など,肝静脈灌流域も考慮した術式立案が必要となる手術では,3Dシミュレーションはいまや欠かせないものとなっており,先進医療としても認可を得るまでになった(「肝切除における画像支援ナビゲーション」).
東京大学医学部附属病院肝胆膵外科では,2010年6月までに247例の肝切除症例(生体肝移植ドナーを含む)に対して術前画像シミュレーションを行ったが,この数は,同期間の全肝切除症例の47%に相当するものである.これらCTやMRI画像に基づくシミュレーションは,鋳型標本を用いた解析と異なり,脈管の走行方向や角度,各種脈管により形成される面が実際の生体内そのままに捉えられるため,従来の肝区域解剖分類で明確にされてこなかった諸問題に関する新たな知見,回答をもたらす有力な手段となると考えられる.
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