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藤盛孝博著『消化管の病理学』の刊行のいきさつは,2つの序に詳しい.ついFestina lenteという名言を思い出す.この格言,ギリシア語Speude brodeosをエラスムスがラテン語化したと伝えられている.筆者は,フランソワ・ラブレー作(渡辺一夫訳)『第一之書ガルガンチュワ物語』(岩波文庫1973)で,この「悠々と急げ」を学んだ.今年,文庫化された柳沼重剛の『語学者の散歩道』には,どこに向かって急ぐのか自分が納得できる「区切り」といい,「楽しみつつ区切りをつけよ」と理解している(岩波現代文庫,48頁).藤盛氏の本は,好評のうちに,改版できる「区切り」に達した.初版に,「この本の初期・中期の経緯」と表現したが,獨協医科大学の人体病理を担当して,さほど年月をおかないとき,長廻紘氏と企画したテーマ“内視鏡医に必要な病理学の基本”がついに中断し,「燃えつき症候群」に近い心情さえ味わったらしいだけに,感慨も深いだろう.単独執筆と決まっても,消化管全体にわたって,内視鏡像まで含めて諸資料を整えることに,さぞ苦労しただろう.その努力が報いられ,この本が狙いとした「消化管臨床医が日常臨床で臨床画像とマクロ・ミクロを含めた病理所見との対比を行う際に役に立つようにコンパクトに提示した」ことに成功している.
この“簡明消化管病理学”は図譜という形容を付けてもよい好著だが,この定価で出版されたことに,医学書院の意気込みも現れている.消化管全体に関心をもっていて,筆が立つ病理学者は意外に少ないのかもしれない.まず,症例の収集と選別が本書の大きな要素だから資料提供施設も見てみたが,出身の神戸大学に連なる関西は別にして,獨協医科大学に勤務12年にして,関東の研究フィールドをよくも育てたと感心している.筆者は,内視鏡の師近藤台五郎先生までつながる研究会の木曜会(会長・寺野彰獨協医科大学学長)に参加して,藤盛氏の懇切な病理所見の解説を知っている.だから,諸施設も喜んで,内視鏡写真・病理材料を提供して,本書の刊行に協力した.
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