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『解剖学用語 改訂13版』が,医学書院の全面的なご協力により出版された.この13版は,これまで『解剖学用語』として,過去12版を重ねた日本解剖学会用語集とは内容と性格を異にする.その意味では,改訂版と呼ぶのは不適切で,新版とみなすにふさわしい.まず大きな相違点として,従来はラテン語のNomina Anatomicaに準拠して,日本語の解剖学名を定めていたのに対し,今回13版からは,国際解剖学会連合(IFAA)の用語委員会(FCAT)において編纂された英語学名とラテン語によるTerminologia Anatomica(1998, Thieme)を尊重し,日本解剖学会の解剖学用語委員会においてあらたに編集された点が挙げられる.すなわち,これまでの正式な解剖学名はラテン語という不文律にとらわれず,英語の解剖学名も同等に扱い併記した点で,画期的なものとなっている.従来,特に臨床の先生方から,英語の解剖学名が教科書によってもまちまちで困る,何とか統一できないものかという苦情を承り,苦慮していた.これからは自信を持って,本書記載の英文解剖学名をお薦めできる.
これは,単にラテン語から英語と日本語に翻訳するという機械的な単純作業では決してない.解体新書の発刊にまつわる苦辛譚「蘭学事始」に比すべくもないが,「日本語による解剖学用語」(2002年)の編纂作業を含めると,足掛け7年本書の編纂にあたった解剖学用語委員会は,「思いの外難事業であった」由,それは「用語の配列が構造を持っており,その構造に依存して語彙が定められているという解剖学用語の特性を考えれば当然のことであり,またこの用語集がこれまでのものとは次元を異にするまったく新しい企画であった証左である」と坂井建雄委員長が序文に披瀝しておられる.すなわち従来の12版までは,先述の如くラテン語のみのNomina Anatomicaに準拠し,その基本構造に基づいて日本語解剖学名を定めていた.ところが,今回国際的に新たに採択されたTerminologia Anatomicaの用語体系に則り,自ずと配列の構造も大きく変化した.一見してもっとも変化の大きいのは,中枢神経の領域である.これは学問の発展により,これまでの用語集の基本構造および語彙が時代にあわなくなったことを意味している.したがって,従来の解剖学用語との継続性と整合をとりつつも,最近の研究成果に基づきあらたな用語構造を構築する作業となった.解剖学用語も進化するのである.
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