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本誌の文献紹介欄に工藤正俊先生が肝癌に対するTAE療法は無作為試験の結果,効果なしという欧州からの報告を紹介された(1巻1号139~141頁,2号286~288頁,291頁).TAE療法がよいと信じていた日本の研究者にとってはショッキングな論文であるが,先方の研究のあら探しをするより,日本の研究者はまず反省をすべきであろう.すなわち肝癌の治療に関し無作為試験が今まで一つもなかったからである.国際学会で“日本の学者は無作為試験をやらない”という定評が固まりつつあり,憂慮すべきことである.
消化器領域でのこの問題のはしりは,悪性胆道閉塞に対するPTCD療法である.日本が世界に先駆けてドレナージによる黄疸の軽減を待って手術をしたほうが予後が良いということを言い出し,その考え方が固まったころにTerblanche, Blumgartらによる追試が行われ,ドレナージしたほうがかえって予後が悪いという外国の報告が相次いだ.日本の外科医は欧米の医師は手技がまずいので悪い成績が出たのだと一人決めをしていた.しかし,国際学会の席では各国から日本の外科医に対する批判の声が上がり,日本の学者は無作為試験をやれないのだと言われるようになった.筆者はPTCDを外国に宣伝する最初の論文を書いたので責任を感じ,津市で開かれた日本消化器外科学会に乗り込み,当時の東北大学の佐藤教授を班長とする大きな研究グループを作って短期間に無作為試験の成績を出そうとしたが,東京の外科の某教授が“PTCDをやらないで手術をすると訴えられるから研究に協力できない”と反対し,ついにこの企画は途絶えたままで,日本の外科医は今でも肩身が狭い思いをしている.国際的に完全な日本の敗北である.
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