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あとがき
虫明 元
pp.1378
発行日 2024年12月1日
Published Date 2024/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416202795
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芸術家が示す創造性の背景にある神経学的な考察をすることで,芸術家をいわば内側から分析しようとする試みの2回目の特集号である(初回は2021年12月号)。自分もカフカに関して記事を載せたが,河村満氏の論文でグレン・グールドと夏目漱石の分析,知情意や時間意識のことに触れている点が興味深かった。特に,脳の内側の部分,デフォルトモードネットワークに着目して論じている点に関心があった。高次機能に関しては,大脳皮質外側に着目した研究は多いが,大脳皮質内側の高次機能は,しばしば無視されてきた。自分自身も『ひらめき脳』(青灯社, 2024)の中で,ひらめきに対するデフォルトモードネットワークの,外側の大脳皮質のいわば影のような存在である大脳皮質の内側領域で行っている働きに着目して,ひらめきと社会性や,情動性との関連性を論じた。
この内側領域の持つさまざま働きは,社会脳と名づけて,社会性だけで理解しようとする場合があるが,それは誤解を招くと思われる。この領域は他者との関係性だけでなく,想像することにもかかわり,その人の内面の思考や感覚,特に私という事に関する自伝的記憶や展望的記憶,ナラティブ思考などの自己意識とも深く関わるからである。芸術家とは,このような想像性を含む自己意識に対して特に感受性が高いと考えられる。そのため,注意という限りある認知的ソースを外界や他者に向けるより,むしろ自分の心の中の世界に向けて,その感覚を作品に表現しているのではないかと感じられる。
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