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てんかんの特集号ということで,以前に「芸術家と神経学」の特集(2021年12月号)でドストエフスキー(Фёдор Михáйлович Достоéвский;1821-1881)とてんかんを取り上げて解説したことを思い出した。当時は,神経疾患としてのてんかんとドストエフスキーの作品に見られる特徴をポリフォニーとして,両者を結びつけて解説した。またその中では,てんかん発作の原因にヒステリーと考えたフロイト(Sigmund Freud;1856-1939)の説は否定されているとも述べた。その後,解離性障害などに関して学ぶ機会があり,もしヒステリーの症状を解離性の症状として捉えてみると,ドストエフスキーの発作も心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD)と関連した身体表現性障害や解離性障害の1つと想定してできるのかもしれないと思われてきた。
ドストエフスキーの生涯をたどってみると,幼少時から青年期にいたるまでさまざまな心的外傷ストレスを繰り返し経験している。その意味では,PTSDというより複雑性PTSDの状態に陥っていたのではないかと考えられる。精神的外傷による解離は古くはジャネ(Pierre Janet;1859-1947)が提唱した。しかし当時の論敵でもあったフロイトは欲動理論において幼児期の性的体験などを基盤にしたヒステリー論で,ジャネの心的外傷後の解離の概念を否定していた。しかし,その後の歴史の展開をみると,むしろジャネこそが正しく捉えていたと考えられる。その点では,やはりフロイトのヒステリー説は,欲動理論の範疇にあり,その点でドストエフスキーを捉えててんかん発作の原因を議論するなら否定されるべき説だったかもしれない。
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