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あとがき
虫明 元
pp.278
発行日 2020年3月1日
Published Date 2020/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201522
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今回の特集は脳の働きの「おしくらまんじゅう」仮説に関連した記事である。これは獲得性のサヴァン症候群の人で,何かのきっかけで脳が障害された後,ある能力はその障害によって低下するのに,その一方で別の新たな能力が顕在化するという観察から生まれた仮説である。この仮説によれば,能力のでこぼこ状態の背景には,脳の中でさまざまな機能が普段から「おしくらまんじゅう」していて,ある能力が落ちても他の能力が今度は「おしくらまんじゅう」で表に出てくることがあるのではないか,というのである。
ひとつ関連して思い出したことがある。障がいとは逆に,先天的に顕著に高度な知的能力を持つ「ギフテッド」と呼ばれる人がいる。しかしこれには個人差があり,能力の現れ方はしばしばバランスを欠いていて,その意味では「でこぼこ脳」の例とも考えられる。異常なほどの熱情,並外れた集中力,一般人とは一風変わった振舞いから,多動性障害,双極性障害,自閉スペクトラム症などその他の心理的障がいの徴候に似ていることもあるし,場合によってはそれらと同じである可能性も否定できないという。しばしば優れた点と劣る点はトレードオフの関係にあることも多い。能力は多様であり,その中の分布は連続的であり,スペクトルの形で表される。多くの能力をそのように捉えると,障がいか健常か,あるいは高能力かどうかも,ひとつの軸の中で人為的にラベル付けされたものでしかないということなのだろう。
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