--------------------
あとがき
虫明 元
pp.1232
発行日 2022年10月1日
Published Date 2022/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416202218
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
本号の特集では,感染症として医療で問題になるウイルスを取り上げている。神経系の基礎研究者としては,ウイルスというと,研究のための便利な道具としての役割も思い浮かべる。例えばウイルスを神経細胞の順行性トレーサとして導入して,軸索の投射先を調べたり,逆行性トレーサとして,注入した部位へ投射してくる細胞を確認したりする際に使うことがある。光遺伝学などでは,新しい機能タンパクを脳に発現させるため,神経細胞への遺伝子の運び屋として,ウイルスを使うこともある。また,導入した遺伝子の発現先の神経細胞を標識する際に,光学的に同定するように緑や赤の蛍光を放つ遺伝子を一緒に導入する。このように考えてくると,神経の病気を起こす原因としてのウイルスが,研究や医学の研究に大変役立っているということは,不思議に思われる。ただ,生物科学においては,生物そのものを研究するのに他の微生物を用いるということは,これまでも多く行われていたし,今後も増えることはあっても減ることはなさそうである。
ここで,大きな視点から,人間とウイルスを含む自然との関係を考察してみたい。人は科学の力で自然を理解するにつれ,自然を制御できるようになってきている。制御はかなり成功して,人間は食料やエネルギーを豊富に使え,効率的な生活ができるようになってきている。また自然を制御することでますます科学的理解も深まっている。一度,このような成功に味をしめると,さらなる技術開発を行い,さらなる自然の制御を進めるのは,人間の本性とでも言うべきものであろう。
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.