書評
「老いをみつめる脳科学」—森 望【著】
大隅 典子
1
1東北大学大学院医学系研究科
pp.389
発行日 2024年4月1日
Published Date 2024/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416202615
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書店に行けば「脳」のコーナーには多数の本が並んでいる。だが,『BRAIN and NERVE』の読者諸氏にとって興味深く読むことができる書籍は決して多くはない。長崎大学名誉教授である森望先生の最新作,『老いをみつめる脳科学』は,ご自身のご研究の足跡をたどりつつ,脳の老化に関する研究の歴史と進展について,主に分子生物学的研究の知見ベースに解説されている。本書の帯に添えられた「脳と老化のサイエンスストーリー」という言葉は,まさにぴったりな副題であり,推理小説を読むような気持ちにさせられる。たくさんの分子の名前が出てくるのはちょっと……という方にとっても,具体的に描き出される研究者の人生模様に共感しながら読み進められるだろう。
筆者が森先生を存じ上げるようになったのは,先生ご自身が研究されてきたNRSF(neuron-restrictive silencer factor,別名REST, the repressor element-1 silencing transcription factor)という分子に,先生とはまったく異なる方向からたどり着いたためであった。われわれは,父親の加齢が子どもの神経発達症のリスクとなる疫学研究をもとに,加齢マウスの精子DNAにおけるエピジェネティックな変化を追求していたのだが,加齢によって増加するDNAの低メチル化領域に共通していたのが,NRSF/REST結合配列だったのだ。
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