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最近の臨床医学においては,従来の臓器別,疾患別の系統的な臨床の体系と共に,より客観性の高い臨床検査法を駆使した系統的な診断情報の集約と解析がつよく要求される。臨床検査法の中でも臨床負荷試験というのは生物学的な言葉で表現すると刺激に対する応答すなわち刺激反応ということになろう。負荷試験においては生体の神経体液性(自律神経とホルモン系)の制御調節機構が大きく関与しているが,負荷試験は生体反応の動的な面を解析しうると共に従来の分析的な検査のみでは察知することのできないような病態の襲にかくれた姿を截然と白日下にひき出すといったような特性と利点を有している。正しい臨床検査は適切な治療に直結するものであり,適切な臨床検査は治療学の圏内に本来は包含されるものともいえよう。しかしながら本邦においては臨床負荷試験についてまとまつた著書は皆無に近く,著者の知るかぎりでは僅かに「日常役立つ臨床負荷試験」を特輯した日本臨床(28巻11,12号,昭和45年)などを見るだけであつた。本書は特に各臨床分野のものをあまねく総論的に,原理的にとらえながらも各臓器別にその方面の真の専門家によつて,各種の負荷試験についてその目的,方法(注意事項を含む),評価,問題点などについて簡潔に要領よくまとめられしかも随所に二色刷の図が挿入されて理解し易い一読して大変楽しい好著である。章によつてはやや荒削りな記述の個所もなくもないが本書のような好著の出版はまことに時機をえた貴重な刊行と思われる。不馴れな書評の筆をとりながら故柿沼昊作教授が臨床講議で「自分がして貰いたくない検査は患者にしたくないネ」とよく語られたことをゆくりなくも想い出したが,臨床検査によってえられる情報が決して医師の学問的興味のみを満足するものであつてはならないし,また患者にとつて危険で苦痛の多いものであつてもならないことは当然であろう。今後簡便で安全,しかも再現性の高い臨床的に有用な新らしい臨床負荷試験が相次いで考案開発される一方,また現行の負荷試験も含めて,あるものは時の流れと共にfade outしてゆき,時の力が淘汰し残し続けてゆくものや,おのずから変貌をとげるものもあろう。今後このような各種負荷試験の適切な取捨選択,改訂によつて,本書が広く真摯な臨床家,医員,研修医そして検査技師の方の日常必携の愛好書として将来生き生きと繁茂し育ちゆくことを願つている。またCiba Collec—tion Seriesにみられるようなスマートな三色刷ぐらいの分り易い解説図表の挿入をもつと増やしていただけるとさらに「楽しく読みまた見て理解する本」となるであろう。
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