--------------------
あとがき
虫明 元
pp.1088
発行日 2023年9月1日
Published Date 2023/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416202478
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
今月号には戦争トラウマに関する総説が掲載されている。タイトルから近年の海外でのさまざまな戦争に関したトラウマかと思って読んでみると,アジア・太平洋戦争という1941年から1945年にかけて大日本帝国が遂行した戦争に関するトラウマの論文であった。しかも戦争トラウマとは戦争に参加した兵士たちのトラウマであった。特に兵士側に起こる倫理的な心的外傷という概念は新鮮であった。
私は最近では,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の孤立・孤独防止事業の一環として,学生の孤独・孤立に対して演劇手法によりコミュニケーションを育み,さらにはコミュニティの共感性を醸成する活動を行っている。参加者が語った物語を即興で演じるというプレイバックシアターでは,さまざまな経験が語られるが,時々その人にとってはトラウマになるような経験談も出てくることがある。個人の胸に封印しておくことも可能ではあるのだが,ふと語りたいと思うときに語りを受け止めてくれる人がいることはその人の孤独感に大きく影響する。たとえ多くの人に囲まれていても,話せないことを胸にして,心の表層だけを語り合うことはある意味で孤独に感じるものである。
Copyright © 2023, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.