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書評 「DSM-5®ガイドブック 診断基準を使いこなすための指針」—Black DW,Grant JE【原著】 髙橋 三郎【監訳】 下田 和孝,大曽根 彰【訳】
明智 龍男
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1名古屋市立大学大学院・精神・認知・行動医学
pp.1228
発行日 2016年10月1日
Published Date 2016/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200580
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精神現象は可視化できるものではなく,ここにこのように存在するといった明示的な形で示すことはできない。それでは,精神の病を「診断」するというのはどういうことであろうか? 一般的には,患者の経験している精神現象を正確に把握し,症状として記述することがその第一歩となる。一方,ベテランの精神科医なら,診断をすることの難しさをよくご存知のことと思う。
それでは,そもそもなぜ,私たちはこのとっつきにくい精神疾患を診断しようとするのであろうか? 精神疾患が,すべての患者と共通の特徴やその患者固有の特徴のみで構成されているのであれば,診断をする意味はなく,あるいは不可能である。しかし,一部の患者とは共通だが他とは異なる特徴が存在し,特徴的な単位として認識することができるのであればどうであろうか? これが,そもそも疾病分類と言われるものであり,これら単位に固有の名称を与えたものがいわゆる診断である。このような作業を行って,初めて精神疾患を共通言語として語ることができるようになるのであり,DSMもその一例にすぎない。一方,この共通言語が存在しなければ,私たちは自身の経験から学ぶこともできなければ,共通の土俵で疾患について語ることもできず,それ故,精神医療をよいものに深化させることができない。
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