書評
—Barnhill JW 原書編集,髙橋三郎 監訳,塩入俊樹,市川直樹 訳—DSM-5®ケースファイル
松永 寿人
1
1兵庫医科大学・精神科
pp.86
発行日 2016年1月15日
Published Date 2016/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205103
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2013年に米国精神医学会によって刊行されたDSM-5®は,DSM-Ⅳ以来約20年ぶりに改訂された精神疾患の分類体系,および診断基準である。これにより,精神医学あるいは精神科臨床は新時代を迎えたと言えよう。特にこの20年間には,精神疾患の生物学的病態,中でも遺伝を中心とした病因や脳内メカニズムの解明が進展し,これがDSM-5®の改訂プロセスに大きく影響したことは言うまでもない。またこれらの知見は,新規向精神薬の開発といった新たな治療法の探求を促すものとなり,臨床における進歩にも多大な貢献を果たしてきた。
その一方,現代社会は,急激に変貌する中で多様化・複雑化し,災害や社会・経済,治安,そして健康上の問題など,心身の健康を損なうようなストレス状況が生じやすくなっている。特に不安や喪失には,社会全体で共有される側面もあり,現代は人々の心が蝕まれ,不安定化しやすい時代と言えるであろう。たとえば,労働を含む社会的環境,あるいはその変化にうまく順応できず,うつ病や不安症といった精神疾患を発病し,精神科を受診する人が急増している。さらに急速に進む高齢化やがんなどの身体疾患患者の心のケアなど,精神科医療のニーズはより拡大しつつある。その中でみられる精神科的問題には,その臨床像や背景の個別性がますます顕著となり,診断にも苦慮するような複雑なケースは決して少なくない。
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