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臨場感あふれる症例で治療手法・手技の適応を学ぶ
本書は1981年にはじまったDSMケースブック・シリーズの最新版である。このシリーズには診断・診療計画を扱ったものと治療を扱ったものがあり,DSM-IV-TRによる前者の症例集は,同じ訳者によりすでに邦訳されている(『DSM-IV-TRケースブック』医学書院,2003)。今回出版された【治療編】では,この症例集にある235例から29例が選ばれ,さらに新たに5例を加えた34例についての治療が紹介されている。疾患的にはほぼ網羅されているが,気分障害圏,神経症やパーソナリティ障害,児童青年期の障害が多く,逆に器質性精神障害が少ない。米国の一般の精神科医が遭遇するケースを中心にしているのだろう。構成としては,症例要約とDSM-IV-TR診断のあとに治療方針が書かれているが,その著者は当該分野の第一人者で,統合失調症の症例のホガティ,境界性パーソナリティ障害の症例のガンダーソンらである。オーソドックスな治療法の解説とともに,この症例ではどうするかということが,時にかなり具体的に提示され,また同一症例で複数の専門家がまったく異なった立場から論じているのもあり(境界性パーソナリティ障害,パニック障害など),その記載には臨場感がある。
中味を通して,生物心理社会的モデルに基づく評価と治療計画の重要性が随所に強調されているのが目に付く。その一つとして,Engelが1977年にScienceに寄せた論文が紹介されている。わが国では,このモデルは統合失調症などで主に扱われているが,ここでは「生物学的治療の成否は心理社会的要因とそれに対する共同的アプローチ次第」(パニック障害の治療)という見解が随所に出てくる。精神医学が他の医学分野に貢献できるモデルであるという米国精神医学の主張が底流にあるのだろう。
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