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「このヒトに聞く」欄は,実にユニークな企画であると自負している。この欄を設けるにあたっては,パイオニアとして日本の神経科学を牽引してこられた方々の研究にかける想いとともに,その独創的な考え方と感じ方を,読者に対して直接語っていただこうと考えた。これまで実際に何人かの方々と対談をさせていただいてきたが,思い出の記とか回想録といった形で書かれたものとはまた違った臨場感あるお話を,ワクワクしながら伺っているうちに時の経つのを忘れ,予定時間を大幅にオーバーしてしまうのが常であった。私がこれまでに担当した3人の方々,萬年 甫先生,川人光男先生,そして今回の祖父江逸郎先生は,いずれも類稀な話し手であり,聞いていて飽きることがなかった。特に,祖父江先生との対談では,先生の語られるお話の余りの面白さに引き込まれ,大変長時間にわたってお話しいただくことになってしまった。その結果,2号にわたって掲載させていただくことになったが,これは1回分の対談なのである。
常日頃私は,科学研究というものは,もっと語られるべきものであると思っている。その昔パリで神経学の臨床を学んでいたとき,師匠のロンド先生は,患者さんの診察をしながら,こういう現象をみて誰々先生はこう言われたとか,このような症状を示した患者さんで,試しにこんな治療をしたらすっかりよくなったとか,エビデンスだけを重んじるような最近の教科書や論文にはまったく書かれていないようなことを,よく話してくださった。また,もう1人の臨床の師である故豊倉康夫先生は,病棟回診のときに,患者さんの示すさまざまな現象について思いつかれたことを,しばしばわれわれに語られたが,それらの言葉もまた,どこにも書かれていない斬新なアイデアに満ち溢れていた。こうして師匠たちが語られたことは,現在の私の考え方,感じ方を育て,自らの独創を鍛えてゆく糧になっている。
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