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あとがき
梶 龍兒
pp.998
発行日 2009年8月1日
Published Date 2009/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416100549
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医者をしていての一番の報酬は,F. Peabodyによれば患者との個人的な絆(personal bond)であるという。決して金銭ではない。最近地域医療を担う若手が少なくなっているのは,あるいは医学教育のせいかもしれない。私はいまでも月に一度は京都の下町の病院で診療しているが,10年以上も前からみている患者さんがたくさんいる。この人々はなじみの患者であり,私が苦しいときも一生懸命に助けてくれた人々である。これらの人々との個人的な絆は私にとっての宝である。地域の診療所のよいところは,このような絆を大切にした医療ができる点にあるのではないだろうか。医師をしていてよかったなあと感じるのは,たまに(決していつもではない)人の役に立てることと同時に,いろいろな人生を垣間見ることができる点である。職業柄いろいろな人の最期をみとることが多い。とても悲惨な最期もあれば,枯葉の最後の一葉が落ちていくときに黄金色に一瞬輝くような最期もあった。人の死は最も個人的な出来事であり,孤独である。夜間の単独航海に似ている。
今月は,分子標的治療として有望な分野でご活躍中の先生方に,最新の神経疾患の治療法開発に向けた展望をまとめていただいた。最近の脳科学の進歩は目覚ましいものがあるが,その成果を治療法への展望へ結びつける「橋渡し研究」への道筋を示している。例えば最強の毒素といわれているボツリヌス毒素が,いまや難治性てんかんの治療薬になろうとしている。21世紀には神経疾患に苦しむ患者さんの人生を垣間見る医療から,積極的に人生を変える医療になることであろう。しかし,医師の生きがいは変わることはない。
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