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ここに2枚のカードがある。その裏には800円とか200円とか金額(-800円から800円まで)が書かれていて,実験参加者は1枚だけめくるとそこに書かれた金額が報酬として支払われる(マイナスの場合報酬から差し引かれる)。この一見単純なゲームは,参加者がカードを引いた後にすぐに「引かなかった」カードが見せられることで一筋縄ではいかない様相を示し始める。すなわち,自分が引いたカードが200円で,選ばなかったカードが800円だったとしたらどのように感じるだろうか? 「あっちのカードを引いていれば儲かったはずなのに,しまった!」たいていの人はこう思うに違いない。あるいは,自分の引いたカードが-200円で,選ばなかったカードが-800円だったとしたら,「危ないところだった,200円の負けでよかった」と考えるだろう。このときの脳活動を測定すると帯状皮質領域の活性化が得られ,その部位はある感情と密接な関係があるという。どんな感情と関係があるのかについては,本書第Ⅲ章2項の「損得勘定する脳」をご覧いただきたい。ヒントは,現実に株取引などで大きな損失を被ったとき「痛い損失」と表現されるのは偶然ではないということである。
冒頭から,このような「どうするオレ的損得勘定」の話の引用で,何の書籍の紹介かと訝る読者もおられるに違いない。岩田 誠先生と河村満先生という神経心理学界における碩学お2人の編著になる,本書「社会活動と脳―行動の原点を探る」は極めて興味深い話題に富んでいる。本書の目次をみると,序論,第Ⅰ章:表情認知の脳内機構,第Ⅱ章:意思決定のメカニズム,第Ⅲ章:理性と感情の神経学から構成されており,守備範囲の広さがうかがえる。
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