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はじめに
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は,中枢神経系の多巣性の脱髄病変(demyelinating lesions)と,それに起因する多彩な神経症状で特徴づけられる慢性神経疾患である。病変は視神経,大脳深部白質,大脳皮質,脳幹部,小脳,脊髄などに散在するが,症例によって病変分布,病変の大きさ,形状,組織破壊の程度などに,大きな差異が存在する。臨床経過によって再発・寛解型(relapsing-remitting type),二次進行型(secondary progressive type),一次進行型(primary progressive type)のMSに分類されるが,発症後数年で車椅子生活に至る重症例から,20年経過しても大きな変化のない良性型まで,臨床経過は多様である。教科書では「脱髄疾患」に分類されているが,実際は軸索障害(axonal degeneration)を伴う症例が多い1)。その病態についてはさまざまな議論があるが,免疫抑制剤や血漿交換療法などの臨床的有効性だけでなく,過去に施行された臨床治験の結果は,MSが自己免疫疾患であることを支持する。ウイルスの関与も否定はできないが,感染は自己免疫の誘導または修飾因子であって,MSの本質は自己免疫であるという意見が大勢を占めている2)。
MSの治療は,急性期と慢性期の治療に分けられる。前者はステロイド療法や血漿浄化療法が主体であり,後者はいわゆる疾患修飾薬(disease modifying agents)による治療であり3),再発や進行を抑制し長期的な予後を改善することを目標にする。疾患修飾薬として内外で広く使用されているインターフェロンβは,MSがウイルス疾患であるという誤った仮説に基づいて開発されたが,臨床試験で有効性が示されたので,治療薬として普及するに至った。また,欧米で普及しているglatiramer acetate(Copaxone(R))は,MSがミエリン塩基性蛋白(myelin basic protein:MBP)に対する自己免疫応答によって起こるという推測に基づいて開発された4)。一方,近年の薬剤開発は,MSが自己免疫疾患であることを前提とし,ヒト免疫疾患またはMSの動物モデル実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis:EAE)で有効性が証明されたものを対象とすることが多い。その多くは,本稿で取り上げる分子標的医薬(molecular target drug)に分類されるものであり,既に海外で上市されているnatalizumab5,6)はその代表例である。今後,分子標的医薬の中から大きな成功を収める薬剤が出てくる可能性は大きいが,一方では,副作用のために開発中止になる薬剤や適応が厳しく制限される薬剤が出てくることは,大方の予想するところである。開発における被験者の健康被害を最小限に抑えるためには,臨床試験や開発に関わる担当者がMSの臨床や免疫病態に関する理解を深めることが必須である。また分子標的医薬を処方する医師には,専門的な臨床免疫の知識が要求される。
Abstract
Multiple sclerosis (MS) is a chronic central nervous system disease in which autoimmune mechanisms are operative. Although it appears that the prognosis of MS has been significantly improved after interferon-β and glatiramer acetate were introduced in clinic,many patients are still refractory to available medications,and the necessity to develop new treatment options is obvious. Current trend in the drug discovery is to find or make a drug whose molecular target is clearly identified. This is also the case for the development of drugs for MS. Here I review current status in the development of so-called "molecular target drugs" for MS. In general,effects of such drugs well fit to the expected mechanism of action. Although concerns about opportunistic infections including JC virus-mediated progressive multi-focal leukoencephalopathy (PML) have not been dissolved,better clinical and laboratory monitoring of the immune system of the patients may help minimize potential side effects of these drugs.
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