書評
「DSM-IV-TRケースブック【治療編】」―高橋三郎,染矢俊幸,塩入俊樹●訳
大森 哲郎
1
1徳島大学医学部精神医学分野
pp.567
発行日 2007年6月1日
Published Date 2007/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416100090
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経過を聞き,所見を取り,診断を立て,治療方針を考える,この作業をわれわれは日々行っている。本書では,精神疾患各種34症例の経過と症状が記述され,DSM-IV-TRにしたがって診断が鑑別され,さらに症例によってはその後の経過までもが提示されている。これによって,それだけ読んでも具体的なイメージがわきにくい,DSM-IV-TRの診断基準が,実例に即して生き生きと伝わってくる。ここまでは,既に出版されているDSM-IV-TRケースブックと同様である。
その姉妹編である本書の眼目は,実はその先にある。それぞれの症例について,その疾患の名だたる専門家が,一般的な治療指針にとどまらず,自分ならどのように治療するかを,かなり踏み込んで率直に語っているのである。あまりに操作的であるがゆえに,研究目的の診断確定には有用でも実際の臨床には不向きと思われがちなDSMシステムであるが,そんなことはないことが臨場感をもって納得できる。むしろ,現在の代表的な治療法がDSM診断体系に基づいて研究されているからには,この診断体系との照合なしに,治療を論じることはできないのである。本書は34症例の見事な臨床検討記録となっている。
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