Perspective◆展望
患者に理解されるインパクトある説明—技術と工夫
赤井 裕輝
1
1東北労災病院 糖尿病代謝センター
pp.159
発行日 2016年3月15日
Published Date 2016/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1415200364
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私たち糖尿病専門医は,コントロール不良患者に病状や治療を説明しながら「もどかしい」と感じることが少なくない.すでに多量の蛋白尿が出ている,腎機能はeGFRがすでに50mL/分を切っている,なのになのにどうしてわかってもらえないのだろう!? こんな経験は糖尿病患者を診ている医師なら誰にでもあるに違いない.ある時私は,紙に絵を描いて説明しながら「写真ならもっと伝わるのでは」と思いつき,糖尿病性腎症の腎組織弱拡像を糖尿病性腎症の患者に見せたことがあった.PAS染色では,すでに硬化して機能の廃絶した糸球体は紫に塗りつぶされる.この変化は誰にでも一目瞭然である.患者にもインパクトがあるようで,写真を見せながらの説明が終わる頃には患者の表情がまるで別人になっていた.ここまでくると,聞く姿勢の真剣さが違ってくる.患者が,スタッフの待つ糖尿病性腎症対策チームに自ら参加した瞬間であった.
「腎臓が弱る」,「腎機能が低下する」という表現では,患者には「休んだら回復するんじゃない……?」程度の受け止めになってしまう.「弱る」,「低下する」という説明は,どうしてもアナログ的理解にしかならない.しかし,糸球体の一つひとつが機能を廃絶した姿はまさにデジタルである.写真には生々しさがある.こうなってしまったら,いったん硬化した糸球体に再び血流が戻って機能が回復することのありえないことは,非専門家である患者にも一目瞭然である.「ここまで悪化させてはならない!」,「何とかしよう!」.言葉にはないリアルな世界である.
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