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はじめに
第二次大戦後の50年あまりの間に,日本人の平均寿命の驚異的な伸びに医学の進歩と医療環境の改善が,多大の寄与をしてきたことは論ずるまでもない事実である.日本の高度経済成長は,栄養不足の生活環境に代わって,栄養過多,飽食の社会をもたらしたし,生活環境の進歩は運動不足の日常を当たり前にしてしまった.また,こうした社会の急速な変化は医療を感染症中心からいわゆる生活習慣病中心へとの変貌を来し,慢性疾患の自己管理がその軸となった.当然ながら社会の変化に合わせて医療の提供のあり方も変わっていくべきであろう.ここに最近盛んに言われる医療の質を考える意味があるように思われる.1986年にアメリカ医師会は医療の質を『生命の延長と質に確実に寄与するケア』と定義している.この定義に従えば医療の目的と使命とは,1)QOLを向上させること,2)予後の改善が得られること,の二つと考えられる.20世紀の医学の進歩は目覚しいものがあったであろう.その進歩に伴ってさまざまな新しい医学医療の問題も議論された.21世紀,医学はより科学的に,医療はより文化的に,進化していくであろう,というのが筆者の思いである.医学書には医学のことばかりが書かれているし,医学教育もその点ばかりを行ってきた.医学的には同じであっても,それを受ける患者を取り巻く状況は千差万別である.
これからの医療提供者は倫理,宗教,哲学,人生観,経済,社会情勢,法律,心理,国民性,はては一人一人の患者の個人的状況まで十分に包括考慮したうえで診断治療をすることが必須になるように思われ,医療者としての社会的な資質が問われるであろう.
たとえば,生活習慣病の治療法を考えるにあたって,非薬物療法としての食事療法や運動療法は,医療に対する文化的センスを問われるし,薬物療法は医学に対する科学的センスを問われていると考えて差し支えないだろう.生活習慣病がある,と診断したら,診断した医師の責任は重い.なぜなら,痛くも痒くもない無症状の患者にいかにして治療に対して十分な認識と動機をもたせるか,を考えなくてはいけないから.
さて,日本人の糖尿病患者数は今や690万人(HbA1Cが6.1%以上),HbA1Cが5.6%以上,6.1%未満の糖尿病を否定できない人を含めると1,370万人にものぼる,とされている.ほとんどの人が一生涯にわたる何らかの疾病管理を必要とするだけにその臨床経過の観察と時機を失することのない連携が患者一人一人のQOLの確保のために大切であろう.
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