"なぜ診断できないか"を科学する・8
血球貪食症候群について
江村 正
1,2
1佐賀医科大学総合診療部
2現:ミシガン州立大学家庭医学科
pp.773
発行日 2002年8月15日
Published Date 2002/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414903599
- 有料閲覧
- 文献概要
医師になって間もない頃,他の研修医が担当していた,高熱の若年女性が短期間で死亡した.剖検はできず,臨床診断は,血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:以下HPS)であった.この時初めてHPSを知った.「こんなおそろしい症候群があるのか.」その不安を消すために文献を読んでみたが,診断・治療が一筋縄で行くようなものではないことがわかった.筆者は,血液内科の専門家でもなければ,HPSの経験が豊富なわけでもなく,いまだに原疾患の診断に自信がもてない.しかし,診断困難な症例について述べる際に,この症候群を避けて通るわけにはいかず,今回はHPSを取り上げる.
HPSは,1週間以上持続する高熱,肝脾腫,進行する2系統以上の血球減少,肝機能障害,高LD血症,高フェリチン血症,播種性血管内凝固症候群(DIC)などの多彩な臨床所見を呈する症候群で,骨髄,肝,脾,リンパ節での血球貪食細胞の増加を特徴とする1).なんらかの基礎疾患に続発するものがほとんどで,感染症に続発するもの(ウイルス感染症など),悪性腫瘍に続発するもの(悪性リンパ腫など),自己免疫疾患に関連するもの(全身性エリテマトーデス,成人Still病など),薬剤に関連するもの(フェニトインなど)が挙げられる.すなわち,HPSの基礎疾患は,発熱の鑑別疾患と全く同じなのである.
Copyright © 2002, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.