Generalist and Specialist
身体の中に離れ島はない
浜家 一雄
1
1岡山済生会総合病院病理
pp.399
発行日 1993年5月15日
Published Date 1993/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414900822
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77歳男性で左肺下葉のcoin lesionがあり,ブラッシングで小細胞癌を認めたため,COMP (CPA,VCR,MTX,PCZ),VAN (VP-16,ADM,Nidran)療法を5クール,予防的に全脳照射を行い,経過は良好であったが,1年半後に次第に全身衰弱を来し,胸部X線,画像上でも再発所見がなく,恐らく老衰死と考えた.剖検でも諸臓器には再発所見はなく,老衰死と判断した.しかし組織学的には脳髄膜表面へのびまん性の小細胞癌転移があり,最終的には癌性髄膜症と診断した.末期のカルテの記載を見直してみると主治医の記録では意識の混迷が記載されており,看護記録には頭痛,嘔吐などがあったと記載されていた.呼吸器専門医も神経所見を見逃してはならないこと,さらに癌細胞の「生へのしたたかさ」を思わせる症例であった.
病院病理医としての日常にはこのようにspecialistの盲点をついたような症例にはしばしば遭遇する.筆者自身はかつて米国で神経病理のレジデントを経験し,その後もしばしば脳病変を検索する機会があるが,脳も多くの臓器の中の1つに過ぎないとの観点が筆者のモットーである.腎臓内科の先生方にこどものネフローゼ症候群で蛋白摂取を制限する必要があるのかという議論があり,成長に最も必要な蛋白を制限して腎疾患の進展を押さえてどれだけの意義があるのか,というのが結論であった.タイトルの「身体の中に離れ島はない」,「すべては陸続きである」というのは病院病理医25年の実感である.
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