シネマ解題 映画は楽しい考える糧[56]
「靖国」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.161
発行日 2012年2月15日
Published Date 2012/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414102428
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諸刃の剣である「信念」への危惧
上映中止の映画館が続出し,社会的にも大きな問題になった作品なので記憶している方も多いでしょう.内容はタイトル通り,靖国神社を巡るさまざまな立場の人びとの物語です.李纓(リ・イン)監督は本作品を鏡だと述べていました.私たちがこのドキュメンタリー映画を観て描かれている状況や人びとの存在を知った時,何を感じ考え語るのか.それが肝心だということでしょう.私は神道についても靖国神社の歴史についてもまったくの素人ですので,本ノンフィクションを鑑賞して感じたこと,考えたこと,危惧したことなどを幾つか順不同で書いてみたいと思います.
第一にスーパーナチュラルな存在は非常に強力だということ.多くの登場人物が当然のように「魂」という言葉を使っていることに,はっきり言って衝撃を受けました.すでに亡くなった人びとの魂を勝手に合祀されたといって強烈に抗議するする人びとの存在も映し出されました.もちろん気持ちはわかるのです.しかし今生きている遺族の気持ちや政治的意図を別にして魂について純粋に考えてみると,死後の魂って本当にあるのでしょうかと問いたくなりました.また生物学的に明らかにホモサピエンスの一員を現神人として祀り,自然現象を超越した存在として奉ってしまうことの恐ろしさも感じます.
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