シネマ解題 映画は楽しい考える糧[32]
「羅生門」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.145
発行日 2010年2月15日
Published Date 2010/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101860
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真実の不可知性と人間の恐ろしさ
1951年の第12回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞とイタリア批評家賞を受賞し,同年のアカデミー外国語映画賞(名誉賞)を獲得した黒澤明監督の古典的名作.原作は芥川龍之介の「藪の中」ですが,同氏の「羅生門」のエッセンスも間違いなく取り入れられています.黒澤は「生きる」(1952年)と「赤ひげ」(1965年)も監督していますね1).いずれも人間と社会を相手にする医療従事者必見の作品ですので,未見の方はぜひ鑑賞してください.やはり人間を真剣に描く作品は,おのずと倫理に関わってくるのでしょう,強烈でずっしりと心に残る物語です.自分が生まれる遥か前につくられた芸術作品に感動し,考える糧を得ることができる.素晴らしいことではないでしょうか.
武弘という武士が妻の真砂を伴って若狭を目指す道中,京都は山科のあたりで刺殺されました.検非違使の尋問を受けた遺体発見者の木こり,容疑者の盗人多襄丸,夫の目の前で多襄丸に辱めを受けた真砂,そして巫女の口を借りて語る武弘の死霊の各々が,藪の中で何が起きたのかを語ります.しかし殺人現場に居合わせた4名の発言がすべて大きく異なるのです.証言の食い違いは凶器に何が使われたかだけに留まりません.誰がどうやって何を理由に武弘を殺したのかまで違うのです.まさに三者三様,いや四者四様のストーリー.
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