巻頭言
羅生門
小川 鼎三
1
1東京大学医学部解剖学教室
pp.255
発行日 1961年12月15日
Published Date 1961/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906206
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去る5月の末にロスアンゼルスをおとずれて,マグーン教授に23年ぶりで再会できたのは大きな喜びであつた。23年まえといえば私ども2人はまだ少壮でシカゴのランソン先生の研究所で一室を占めて机をならべていたのであつた。マグーン教授はこんどできた彼らの神経学研究所がこの10月半ばに開かれるのだと言つて,案内してくれた。それは彼の大きい名声を反映するかのように豪壮なものであつて,私じしんが永いあいだ関係をもつてきた東大脳研究所と頭のなかでくらべて内心じくちたるものがあつた。
ロスアンゼルスの研究所はいろんな部門が設けられるはずだが,やはり神経生理学がその最も主な部分をなしていることはすぐに感得された。それはマグーンやその他のメンバーの名前をみるとき全く当然なことである。そのあとで欧州でもいくつかの神経学研究所をたずねたが,とくにドイツではフランクフルトに目下建造中の大きな脳研究所をクリュッケ教授の案内で見せられたときはかなり深い印象をうけた。開所までにはまだ1年以上かかるとおもわれる状態であるが,スケールが大きくて,戦前にベルリン郊外のブッフにあつた脳研究所をほうふつさせるものである。その内容をきくと,解剖学・病理学・生化学を主にするとのことで,生理学の名前をあげなかつたのはクリュッケ教授の言い落しや私の聞き洩しではないとおもう。その点でロスアンゼルスのものとはその覗いどころが若干ちがうのだなとおもつた。
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