Editorial
医学知識の“生存期間”
福井 次矢
1
1聖路加国際病院
pp.629
発行日 2007年8月15日
Published Date 2007/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101180
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いったいどれくらいの速度で医学知識は更新されているのであろうか?ずいぶん前から私の抱いている疑問である.今となっては誰が言い出したのかわからないが,「医師は大学卒業時の知識の75%を40年間(臨床医として働く期間)で更新しなくてはならない」という文章を,米国の一般内科医がエッセイ風に書いているのを読んだことがある.しかし,その根拠はあるのだろうか?
もう5年近く前になるが,Annals of Internal Medicineにフランスの研究者が発表した興味深い論文1)を読んだことがある.それによると,1945年から1999年の間に成人の肝硬変と肝炎に関する原著論文とメタ分析の論文をレビューしたところ,論文の結論474のうち285(60%)が2000年の時点でも正しいと考えられていて,91(19%)は時代遅れ,98(21%)が誤りとされていた.各研究論文の結論の“20年生存率”を計算すると,研究方法がメタ分析により導き出された結論は57%±10%,非ランダム化比較試験によるものは87%±2%,ランダム化比較試験によるものは85%±3%であり,方法論的に言って高いレベルのエビデンスが,低いレベルのエビデンスより生存期間が長いという結果は得られなかった.また,ランダム化比較試験によって導き出された結論の“50年生存率”を計算したところ,陰性結果を示した52の論文の結論(68%±13%)のほうが陽性結果を示した118の論文の結論(14%±4%)よりも生存率が高かった.
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