患者の論理・医者の論理20
傷害としての医療
尾藤 誠司
1
Seiji Bitou
1
1東京医療センター総合診療科
pp.1058-1062
発行日 2004年12月1日
Published Date 2004/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101087
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Case
Case 1
Nさんは42歳の女性.7日前から上腹部のしくしくした痛みが続き,D医院を受診した.診察上は一時的な胃炎であると考えられたため,まずはH2ブロッカーを投与して症状の経過を追うのがよいと判断し,「それではまず胃薬を出しておきます.薬を飲んでいる期間は避妊をお願いします.また1週間後にいらしてください」と言って診療を終えた.翌日よりNさんのお腹の具合はよくなってきたが,5日後より異変が起こった.唇を中心にただれが生じてしまったのだ.すぐにNさんはD医院に駆けつけた.D医師はスチーブンス・ジョンソン症候群であると判断し,「おそらく胃薬の副作用でしょう.めったにこんなことはないのですが….アンラッキーでしたね」と説明したが,Nさんは「先生を信じていたのに,こんなことになってとてもつらい」と泣いてしまった.D医師は,「お気持ちはわかりますが,そもそもこの薬は薬局で市販されているくらいですから,そんなに危険な薬ではないのですよ」と説明するのが精一杯であった.
Case 2
S病院では,病院としてある取り決めをした.今年,中心静脈栄養を目的とした静脈路確保のためにS病院で施行された鎖骨下静脈・内頸静脈穿刺術の際に,手技に伴う重大な合併症が10例発生し,さらにそのうち3例は集中治療を要するほどの生命の危機にさらされる事態となったため,警察の介入があったのである.それを受け,今後S病院で行う中心静脈穿刺は,原則的にすべて大腿静脈からのアプローチで行うことを決定したのである.
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