感染症フェロー便り[11]
―抗菌薬使用のピットフォール③―ターゲットをカバーしていても…(続)
松永 直久
1
1UCLA Affiliated Program in Infectious Diseases
pp.356-358
発行日 2007年4月15日
Published Date 2007/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414100926
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症例1
75歳,糖尿病と高血圧の既往のある男性.数日前より発熱,咳嗽,喀痰が出現.増悪傾向にあったため来院.入院歴はない.体温38.8℃,血圧90/50 mmHg,脈拍120/分,呼吸数24/分.胸部X線では右中肺野に浸潤影が認められ,肺炎と診断された.喀痰では白血球が認められたものの,菌体は確認できなかった.意識清明,経口摂取も可能なので,経口のレボフロキサシンが開始となった.
この症例は典型的な市中肺炎です.するとターゲットとなる菌は,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,レジオネラといったところでしょうか.菌体が認められなかったことから,レジオネラなどグラム染色に染まらないタイプの肺炎をより意識しますが,グラム染色で染まる細菌も意識しておくというスタンスで抗菌薬を開始したいところです.ここではレボフロキサシンが投与されていますが,これはターゲットとなる細菌をカバーしているようです.はたして,上記の治療法で本当によいのでしょうか?
もう一度バイタルサインを見てください.血圧は低く,脈拍は速くなっています.安定した循環動態とはいえません.肺炎による敗血症になっていると考えられます.このような重症の感染症に対しては,経静脈的に抗菌薬を投与して早急に十分なレベルの血中濃度を得られるようにする必要があります.経口で投与した場合には,吸収に要する時間だけ,十分な血中濃度に達するまでの時間が遅れてしまうからです.
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