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Case
脱水症・急性胃腸炎と診断されていたうつ病の1例
患 者:24歳,男性.
主 訴:食欲減退,倦怠感,嘔気,時に息苦しさ.
現病歴:平成X年7月11日,暑いなかを2時間以上歩いた後,上記の症状が出現.7月13日T病院を受診.脈拍90/分,RBC 626万/μl,Hb 15.5 g/dl,Ht 43.7%.その他,血液生化学に異常を認めず.パルスオキシメーターによる動脈血O2分圧は98%.“脱水症,急性胃腸炎”の診断のもと,ラクテックG(R)500 mlを点滴後,ガナトン(R)3T,エクセラーゼ(R)3T,ラックビー(R)3 g(以上,分3)を処方されて帰宅した.
その後,7月14日(休日)に電話再診.たまたま依頼されてT病院で当直をしていた筆者が応対した.不眠の訴えがあり,1時間ごとに頭が熱くなってぼーっとしてくるなど,自律神経症状を訴えたため,来院のうえで訴えを聴くことにした.同日,母親とともに来院.他覚的徴候の少ない呼吸困難,喉頭部違和感を訴えた.大学の社会科学部卒業を前にしてジャーナリストとしての就職を目指していたが,厳しい現実を前にし,約半年前から死にたいと思うことが多くなってきた.もともと人と話す機会が少なく,たまに人と話をして意見が合わないと,自己の感性や人格を否定されたように感じ不安になった.以上から,胃腸炎よりも不安抑うつ状態が考えられ,ドグマチール(R)(50 mg)3T,リーゼ(R)(5 mg)3T(以上分3),アモバン(R)(7.5 mg)1T/1×就眠前を処方し,以後の診療を混雑した一般内科外来よりも,心療内科のOクリニックで行う旨,了解を得た.Oクリニックへ通いながらも,全身のしびれ,歩行困難,動悸などの症状がパニック様に出没して,複数の医療機関を受診するという状態がしばらく続いた.薬物依存になるのではないかという不安のため,服薬コンプライアンスが低かった.
ベンゾジアゼピンに比べて依存の生じないタンドスピロンも用いたが,肝障害のために中止せざるを得なかった.そこで,とりあえずセパゾン(R)(2 mg)を使用し,ベンゾジアゼピンのなかでも離脱症状の少ない長時間作用型の薬剤に移行していくこととした.規則的に服薬できるようになり,不安症状は徐々に軽快.希死念慮に対してはドグマチール(R)に替えてルボックス(R)(25 mg)2Tを用い,やがて軽快をみた.本人は「話を聞いてもらってよくなってきた」と語る.
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