特集 いま日常診療で注目すべき原虫症・寄生虫症
エキノコックス症
伊藤 亮
1
,
石川 裕司
1
1旭川医科大学寄生虫学講座
キーワード:
肝癌
,
多包虫症
,
血清検査
,
居住歴
Keyword:
肝癌
,
多包虫症
,
血清検査
,
居住歴
pp.234-236
発行日 2003年3月1日
Published Date 2003/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414100562
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Case
アルベンダゾール(ALB)による多包虫症長期化学療法の1例
患者は39歳,女性.北見市在住.1987年9月,右臀部痛で発症.右腸骨結核性骨髄炎を疑われたが,旭川医科大学整形外科と第三内科で精査の結果,肝,肺,右腸骨を侵す多包虫症と診断.1989年10月18日ALBの内服開始,腸骨病変の外科的治療が3度行われた.ALBは肝・肺病変には著効したが骨病変には効果不十分で,血清診断や画像診断により経過観察中である.
エキノコックス症としては,北海道で毎年10~20人くらいの患者が報告されている多包虫症(J1)と,国内には分布しないが,時折輸入症例として問題になる単包虫症(J2)とが重要である.野生動物における多包条虫感染率の上昇現象に基づき,「今後患者数が急増する」と予測する意見と,「これまでに見つかっている患者は十~数十年前の環境整備が不十分な時代に感染した人たちがほとんどであり,これまでの住民検診で見つかっていなかった患者が大部分である.生活環境整備が進んだ今日,新しい感染者数の増加を示唆する成績はほとんどない」とする意見に分かれているが,術前確定診断ができない現状では感染者の実数把握は困難であり,今後の患者増減を科学的に予測することは不可能である.動物における感染動態のモニタリングは環境汚染の実態把握,ヒトへの感染の危険度予測という観点から重要で,すでに確立されている北海道のみならず,本州北部でもなんらかのモニタリングシステムを構築することは,たとえ患畜がほとんど発見されなくても,発見されないという事実確認の作業としても社会的意義がある.
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