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寄生虫感染症において遺伝子診断が必要になるのは,形態学的に近縁種との鑑別が困難,あるいは不可能な寄生虫感染が疑診される場合であり,同時に種の鑑別が患者の治療指針を大きく左右する場合である.エキノコックス症として公衆衛生学的に重要な疾患は,北海道の地方病である多包虫症と輸入症例が増加傾向にある単包虫症である.基本的には術前の血清診断,画像診断,術後の病理診断で2種のエキノコックス症の鑑別は困難ではないが,病理学的診断を含め100%正確な診断成績が得られる保証はない.そのため,旭川医科大学では,確実性を期すために病理標本を用いる遺伝子確認をルーチン化している.中国のチベット高地から多包条虫の矮小型が見つかっていたが,これは新種であることが旭川医科大学の研究から判明している.これまで単包虫症を引き起こす単包条虫は1種と考えられ,種内変異として10以上の遺伝子型に分類されてきた.しかし最新の遺伝子多型解析から,10の遺伝子型は4種の独立種,さらにアフリカの野生ライオンから見つかっていた単包条虫も独立種であることが旭川医科大学の研究から判明している.これらの種の鑑別に必要な遺伝子プローブが初めて開発されたことになり,今後,これまで多包虫症,単包虫症とみなされていたヒト症例を上記の種の鑑別に必要な遺伝子プローブを用いた再検討が必要かつ可能な時代になった.すなわち,ラインに寄生するEchinococcus felidisによるヒト症例が見つかれば,人獣共通感染症として,アフリカでの野生動物観察ツアーの危険性も議論せざるを得ないなどの新たな新興・再興感染症の問題が提起されうる.また,人体寄生条虫症として牛肉の生食による無鉤条虫症が世界的に流行しているが,アジア・太平洋地域ではブタの内臓生食によって感染する形態学的鑑別が不可能なアジア条虫が発見されており,地域住民の食生活にまつわる寄生虫病の流行阻止の観点から遺伝子鑑別が必要である.
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