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Case
ローマにおける旋毛虫症発生例
患 者:東欧某国からの移民7名(19~55歳,うち男性4名).
集団発生の背景:ローマ在住の上記7名は,2001年1月6日,故国の親戚から豚の薫製ソーセージの入った小包みのプレゼントを受け取った.このソーセージを1月10日に全員が食したが,なかのひとりの女性が自分の雇い主であるイタリア人家族のところにもお裾分けすることにした.この家族のうち2名がそれぞれ10 g程度のソーセージを食した.2日後,7名の移民のうち6名が下痢,嘔吐などの症状を呈した.これらの症状は一日で治まったが,2月1日,7名全員が発熱(38~39℃),筋肉痛,腹痛を訴え,また6名はこれに下痢および眼瞼浮腫も伴って,ローマ市内の感染症専門病院に入院する事態となった.幸いローマには,国際旋毛虫レファランスセンター(ITRC)が高等衛生研究所内に置かれており,ここで免疫診断法(ELISA)を実施したところ,症状の最も重かった4名は旋毛虫抗原に対し高いIgG抗体価(>1: 800)を示した.好酸球増多は全員に認められ(915~4,080/dl,平均2,388/dl),LDH,CKの上昇が認められる例もあった.
7名全員にアルベンダゾール(400 mg/日,14日間)と抗炎症剤(メチルプレドニゾロン,20 mg/日,3日間)投与による治療が行われた結果,全員が速やかに快方に向かった.ソーセージを食したイタリア人2名のうち1名は摂食後50日目に抗体価が1 : 400となったが,2名とも特別な症状は呈さなかった.
疫 学
旋毛虫症(trichinellosisまたはtrichinosis)は,線虫のなかのTrichinella属の感染によって引き起こされる疾患であるが,その原因となるものは従来から知られていた旋毛虫T. spiralis(肉食動物,雑食動物に寄生,世界中に分布)のほかに,現在では,少なくともT. pseudospiralis(哺乳動物および鳥類に寄生),T. nativa(北極熊に寄生),T. nelsoni(肉食動物に寄生,アフリカに分布),T. britovi(ヨーロッパ,アジアに分布)の4種が存在することが知られている.重要なことは,人獣共通疾患(zoonosis)であるということ,そして不完全調理の豚肉やソーセージを摂取して感染するほかに,熊肉などの獣肉を食して感染することがあり,したがってしばしば集団発生がみられるということである.
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