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編集後記
大家 基嗣
pp.86
発行日 2021年1月20日
Published Date 2021/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413207110
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ディープな場所と人物を取材する深夜番組『マツコ会議』で,大阪にあるレッドソールバーが取材されていました.レッドソールとは赤い靴底を意味し,クリスチャン・ルブタンの代名詞です.クリスチャン・ルブタンの愛好家が集うバーでは,客の皆様はお気に入りのハイヒールを履いて取材を受けていました.女性が気分を上げるのにハイヒールを履くのは男性でも理解の範囲内で,靴の裏が真っ赤であればさらに気分は高揚するのでしょう.真っ赤な色は気分や感情に強い刺激を与えます.フランス人であるルブタン氏の感覚はとても現代的で,写真家・映画監督の蜷川実花さんの世界と相通じる東西共通の感覚だと感じました.ちなみに,蜷川さんもクリスチャン・ルブタンの愛好家です.
そのルブタン氏が雑誌『GQ JAPAN』のインタビューで,愛読書に挙げていたのが,谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』だったのには驚きました.全く真逆の世界です.日本文化の根幹を成す,陰翳を愛する心.例えば,光を抑え,闇が演出された日本家屋で,蝋燭の灯りを頼りに吸い物椀の蓋を取り,はっきりとは具が見えない中で,漆器の手触りを感じながら,食事を味わう.一方,まばゆいばかりのルブタンの靴は,光がフルに当たると怪しく真っ赤に反射する原色の視覚世界です.共通点は見当たりません.探してはいけない気がしました.
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