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AUAに向かう成田空港で,九州大学の内藤誠二教授にお会いしました。昨年に訪れたインドの話題になりました。ご存知のように,今年のアカデミー賞は外国語映画賞を『おくりびと』が受賞したことで話題になりましたが,『スラムドッグ$ミリオネア』が最優秀作品賞を受賞したことも随分注目されました。外国資本映画の最優秀作品賞受賞は『ラストエンペラー』以来とのことです。内藤教授は機内上映ですでにみられたとのことでした。「ああいうところに自分は行ってきたのだなあ」と,感慨深くおっしゃいました。その言葉をお聞きして,私は「この映画はみてみる必要がある」と感じました。
記憶は昨年の10月にさかのぼりました。アジア泌尿器科学会のために訪れる初めてのインド。いつか訪れることもあろうかとは感じていました。出発する1週間前に,開催地のニューデリーではテロで死者が出ていました。参加を中止した先生も少なからずいらっしゃいました。それでも私は,高校生の頃から「人生観が変わるかもしれないインド」を体験してみたいという気持ちがあったのです。飛行機は空いていました。JALに搭乗していた乗客は,ほとんどが仕事で向かっていることが推察できました。到着して,飛行場を出た瞬間,私は「ここは確かに初めてだ。ここに似た場所には来たことがない」と実感しました。映画の一場面が頭の中で重なりました。フランシス・フォード・コッポラ監督作品『地獄の黙示録』の最後,主人公が「Horror…」と唸る場面です。インドは人間の五感すべてを刺激します。見たことのない光景,クラクションのけたたましさ,悪臭,大気のよごれ,湿気。やっとのことでタクシーに乗り,ホテルに向かいました。数分走ったところでタクシーが急停車しました。前方を見ると,アバラ骨が透けてみえる痩せた牛が道の真ん中で寝そべっていました。信号でタクシーが停車すると,物乞いが集まってきます。子供,片腕のないひと,顔に大きな傷を負ったひと。
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