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編集後記
大家 基嗣
pp.92
発行日 2018年1月20日
Published Date 2018/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413206179
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若い先生にはピンと来ないかもしれません.正月の風物詩として,昔は寅さん映画がありました.小川良雄教授(昭和大学)が会長を務められた第82回日本泌尿器科学会東部総会で先生は山田洋次監督を招請され,「寅さんと私」というタイトルの講演がありました.小川教授のお母様のご実家が高木屋,つまり舞台となったお団子屋さんです.先生が若かりし頃にはロケに出くわしたこともあったとうかがっています.1969年の第1作より「男はつらいよ」シリーズは全48作を数え,渥美清さんの他界をもって,終結を迎えました.
監督は御年86歳.気品と色気が備わった方で,ゆっくりと言葉を選びながら,なぜこれだけ長く製作を続けることができたかの理由を語られました.石原裕次郎,加山雄三,植木等がヒーローだとすれば,寅さんは時代のアンチヒーローだった.1970年代,日本が大きく経済成長を遂げていた時代に,切り捨てられ犠牲になったものがある.寅さんを愛することで時代に迎合している自分を許したと,監督はおっしゃいました.当時,JRで“DISCOVER JAPAN”というキャンペーンがありました.がむしゃらに前進する日本に対してわき上がる不安.これでよいのか? と振り返ると,ニコッと笑った寅さんがいて,「オッス」と迎えてくれるということでしょうか.時代を突き進む社会人は組織のなかで生きています.しかし,組織に属さないという選択もある.「どちらでもいいんだ」と,自分を安心させる世界観がそこにはあると監督は話されました.
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