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編集後記
大家 基嗣
pp.184
発行日 2013年2月20日
Published Date 2013/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413103037
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紅葉で有名な貴船・鞍馬は京都の奥座敷と呼ばれています。東京ではさしずめ奥多摩,高尾山がそれに相当するのではないかと私が考えるのも,紅葉が美しいことと,都心からそれなりに離れているからです。東京23区の西に広がる広大な丘陵地は多摩と呼ばれています。太宰治が住んだ三鷹,飛行場のある調布,三億円事件と競馬場で有名な府中,横田基地のある福生など,都会なのですが,武蔵野の自然が残されていて,その調和が住む人の満足感を生んでいます。私も研修医時代に1年間日野市に住みました。都心に住む現在では,若き日の思い出とともに愛着を感じる地域です。
2007年に公開されたオダギリジョー主演の映画『転々』の物語は多摩から始まります。借金を負った主人公は三浦友和氏演じる借金取りから,奇妙な提案を受けます。自分と一緒に歩いて霞ヶ関までつきあうと100万円を支払う,というものでした。窮地を救ってくれるこの提案を受け,「東京散歩」が始まります。映画のシーンのロケ地がほとんどわかる私にとって,映画は自分の記憶を確かめる作業でもあり,満ち足りた時間を過ごしました。奇妙な提案を受ける場面は,神代植物公園。吉祥寺にある井の頭公園で待ち合わせて,「いせや」の焼き鳥を頬張って散歩がはじまります。借金取りは,調布の飛行場で霞ヶ関に行く理由を,井草八幡宮で妻との思い出を語ります。人知れぬ路地をのんびりと2人は歩いて行きます。気ままでゆったりとした時間が流れ,自分が散歩を楽しんでいるようでした。東京の路地はノスタルジアの宝庫だと感じました。
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