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ワシントンDCへの機内に,敬愛する先輩に読むことを薦められました,ポール・トーディ著『イエメンで鮭釣りを』を持ち込みました。題名を見て,『ギンザで蜂蜜を』(この著者はわが町盛岡の養蜂家で,銀座のビルの屋上で蜜蜂の巣箱を設置し,銀座並木の花々より蜜を採取したという実録です)と同じようなことかと思いました。「銀座の蜂蜜」にはなんとも言い難いロマンを感じます。しかし,「イエメンでのサケ釣り」は小説ではありますが,読み始めて夢のような厖大なスケールの国家プロジェクトとして展開している話であることに気づきました。イエメンの1人の王族が英国流の釣りに魅せられて,英国の魚類研究者の協力のもと,母国の川に鮭を放流,さらには鮭釣りを国民に普及させたいというストーリーが絶妙な言い回しで構成されています。なんといっても,砂漠に最新設備を整えた巨大な養殖施設を建設し,そこに北アイルランドより鮭を空輸して養殖,さらには雨期の川に放流するという経費に糸目をつけないびっくりする発想です。また,最近話題のテロ組織・アルカイダも重要な役割で登場します。この流れの根底には,主人公である研究者の子供のいない自立した夫婦間の葛藤や淡いロマンスも程よく含まれています。結末は意外な展開となりますが,プロジェクトは1匹の鮭が釣られて一応成功ということで終結しています。この本を読み終えて考えたことは,現在,結石治療の標準療法であるESWLの誕生にも,「イエメンで鮭釣りを」と同様な中東の石油利権を背景とした偉大なロマンの発想が散在したと確信したことであり,改めて「アラブの偉大さ」を噛みしめた12時間の飛行となりました。
さて,今月号は「特集:血液透析―カレントトピックス」です。聖マリアンナ医科大学 小島茂樹先生らによる「透析導入」,川島病院 土田健司先生らによる「血液透析法のトピックス」,大阪市立大学 武本佳昭先生らによる「バスキュラーアクセスガイドライン」,桃仁会病院 岩元則幸先生らによる「CKD-MBDについて」,大阪府立急性期・総合医療センター 椿原美冶先生による「腎性貧血」,東京女子医科大学 小川哲也先生らによる「心血管合併症」,大阪市立大学 長沼俊秀先生らによる「脳血管障害」,新潟大学 瀧澤逸大先生らによる「腎腫瘍性病変」についてであり,主にガイドラインを中心に実践的に解説していただきました。近年,血液透析は腎臓内科または血液透析部の担当となり,泌尿器科医の手を離れている施設も多いと思います。しかし,本来,泌尿器科専門医にとりまして,腎移植とともに必須の分野であります。今回の特集は,近年の血液療法の最近の話題を整理提供できる有益なものと考えます。
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